代表挨拶

協会設立までの歩み

マレーシアやUAEで通算10年間を過ごし、その間に聖典クルアーンを読んだことがきっかけとなり仏教からイスラームに改宗しました。2009年、ムスリムとして初めて帰国したとき、日本の家族と同じ食事が食べられないということに直面しました。海外では簡単に手に入ったハラールのお肉が、日本では電車で1時間半もかかるハラールショップへ行かなければ購入できない。また、そうやって買ったお肉も日本の食事にはあまり向かないタイプの固いお肉でした。おいしい新鮮なお肉を購入できるようにするにはどうしたら良いのだろう、と思い悩みました。

日本人であり、ムスリムである自分たちがこの国のムスリムが住む環境を整えていくことが、将来この国で生きていく次の世代のための責任であると考え、持続可能な国際基準でハラール認証ができる団体として、2010年に日本ハラール協会を他の3名の理事とともに設立しました。

 

オリンピック開催決定が契機になり、ハラール産業が注目されるように

2013年にはオリンピック開催が決定しました。訪日観光ビザ取得の規制が緩和され、輸出が促進され、日本のハラール産業の追い風になりました。訪日観光客の増加に伴って飲食店や宿泊・商業施設におけるムスリム観光客受入体制の整備が急務となり、全国各地で企業や行政によるセミナーが開催されたり、ムスリム向けのサービスが開始されたりしました。我々理事たちも全国各地で「イスラームとは、ハラールとは」などの話をしたり、飲食店や礼拝設備の設置を行ったりしました。

一方で、食品などの輸出製品に関しては、「ハラール認証を取得しさえすればどんなものでも売れる」との誤解から多くの企業が相談に来られましたが、中には、そもそもハラール認証が必要ではない商品や、ムスリム消費者の嗜好と合わない商品もありました。認証取得には労力も費用もかかるので、きちんと調査や検討をした上で認証取得にすすむべきなのですが、ブームにのって安易に「認証を取得しさえすれば売れる」と考えておられる企業も多いようでした。そのような場合は、「ハラール認証が必要ないものは弊会では認証していません。」「まずはハラール認証なしで一度販売してみて、本当に消費者のニーズにあっていて、ハラール認証が必要であれば再度ご相談ください。」などとお断りせざるを得ませんでした。2016年頃やっとブームは落着き、流行りに流されるように取得を急ぐ企業は減り、本当にハラール認証が必要な企業だけが取得するようになりました。

 

協会立ち上げから10年たった今(2022年現在)

2019年新型コロナウイルスが世界中に広がり、多くの企業や個人が影響を受ける中、ハラール認証においては大手製薬会社をはじめ、原料製造企業からのお問い合わせが絶えることはありませんでした。インドネシアのJPH法施行の影響や、コロナ禍においても食品輸出が堅調で取引先からハラール認証の要求が引き続きあることなど、お問い合わせの理由は様々でしたが、我々も企業のリモートワークや工場立ち入り禁止に対応してリモート監査を実施するなど、限られた環境下での認証監査を継続しました。また、コロナ禍でオンラインショッピングが広まり、国内のオンラインのハラールショップも増加しました。

協会を立ち上げてから約10年たった2022年、いつでも携帯電話ひとつでハラールのお肉や食品が気軽に購入できるようになりました。また、主要な都市・地方にはモスクやハラール対応の飲食店が点在し、駅や空港、商業施設にも礼拝施設が設けられ、ムスリムにとっての環境は随分変化しました。

ハラールやイスラームについて、メディアに取り上げられる機会が増えるに伴い、「なんとなく知っている」という人も増え、10年前から比べても、日本国内でムスリムの生き方への理解が深まってきた気がします。その背景には、ムスリムに限らず日本国内で異文化・異なる習慣・異なる考えを尊重し受入れようとする考え方が広まってきたこともあります。それは、他団体、行政、企業等で各分野に携わる多くの方々がベストを尽くしてこられた成果でもあると思います。

協会のハラール認証活動に関しましては、国際的で信頼性のある認証団体を目指して、海外の監査方法、認証基準を日本に合ったやり方で取り入れ、協会独自の認証基準の作成、監査員の養成、監査手法の開発など試行錯誤を重ねてきました。その中で、間違いがあったり、問題が発生したり、ハラール認証監査という特殊な人材が確保できなったり、辞めてしまいたいくらい行き詰る時もありました。しかし、職員はじめ、理事や監査員、関係者の皆様に支えられ、一人一人の小さな努力が積み重なり、今日があります。協会は皆様の協力の上で成り立つものであります。関わってくださった皆様に心よりのお礼と感謝をお伝えしたいと同時に、今後とも是非ご協力を賜りたい次第です。

 

次世代への責任

昨今人種・民族・宗教による壁をなくすということも、社会的な意義としてあげられるようになりましたが、私たち日本で生きるムスリムにも様々な課題があります。

中には実現するのに一筋縄ではいかないものもあります。例えばお墓の問題、学校給食、イスラーム教育、結婚・離婚、冠婚葬祭、新鮮なお肉の入手などなど。日本でそれらを実現していくためには、日本社会と共に解決をはかる必要があります。そのためにはまず、日本社会の中で「イスラーム」「ムスリム」を知っていただき、逆にムスリムは日本の社会を理解することが必要です。

イスラームは特定の文化を持ちません。日本の文化に順応することで「日本のイスラーム」の形になります。日本がイスラーム化するのではなく、日本の文化の中にイスラームが存在する、イスラームが日本社会に寄り添うようにあることです。これは私たちの世代で実現は難しいかもしれませんが、少なくとも次世代に託すための基盤だけは築きたいと思います。

我々が取り組む社会活動として「学生支援」がありますが、それもこの一環になります。子供たちは私たちの後に社会を創っていく宝であります。ムスリムの子供たちも社会に出てそれを担います。

未来の日本では「ムスリムだから」とか「イスラームを知らないから」などの理由で同じ場にいられないということのない社会になっていてほしいと願います。私たちの世代で「知ってもらう」ことを精一杯活動し、この協会を持続可能な形で維持することに尽力したいと考えています。


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