協会設立までの歩み
日本ハラール協会理事長のレモン史視です。
私は、マレーシアやUAEで通算10年間を過ごし、2009年ムスリムとして初めて帰国したとき、日本の家族と同じ食事が食べられないという現実に直面しました。
この国に住むムスリムや、将来この国を支える次世代のための環境を整えることが我々日本人ムスリムの責務であると考え、国際基準に準じたハラール認証を行う団体として、2010年に3名の理事とともに日本ハラール協会を設立しました。
オリンピック~コロナ禍を超えて
2013年のオリンピック開催決定を契機に訪日観光ビザの規制が緩和され、輸出が促進されたことは、日本のハラール産業にとって追い風になりました。
一方で「ハラール認証を取得しさえすればどんなものでも売れる」との誤解から、当時は多くの企業が相談に来られ、なかにはハラール認証が必要でない商品や、ムスリム消費者の嗜好に合わない商品もありましたが、そのような場合は「ハラール認証が必要でないものに対しては認証しません」「まずはハラール認証なしで一度販売してみて、真に消費者のニーズに合致し、ハラール認証が必要であるという確証が得られてから再度ご相談ください」など、冷静で真摯な対応に努めました。
この頃がいわゆる「第一次ハラール認証ブーム」でしたが、2016年頃にはようやく状況も落ち着きました。
2019年、新型コロナウイルスが世界中に広がり、多くの企業や個人が影響を受けるなかでも、ハラール認証団体に対しては大手製薬会社をはじめ、原料製造企業等からの問い合わせが絶えることはありませんでした。
弊会も企業のリモートワークや工場立ち入り禁止に呼応する形でリモート監査を実施し、限られた環境下での認証監査を継続しました。また、コロナ禍のオンラインショッピングの広まりを受けて、国内ではオンラインのハラールショップも増加しました。
また、コロナからの回復期においてはインバウンドが急増、主要な都市・地方にはモスクやハラール対応の飲食店が増加し、駅や空港、商業施設にも礼拝施設が設けられ、ムスリムにとっての環境は大きく変化しました。
ハラールやイスラームについてメディアが取り上げる機会が増えるに従い、「なんとなく知っている」という層も増え、10年前から比べても日本国内でムスリムの生き方への理解が深まってきた気がします。
ハラール認証の現在地
一方、日本のハラールの変遷を通して時代の移り変わりを目の当たりにし、変化への対応や危機管理の方法など、日本のハラール産業の在り方を根本から見直す必要性を感じるようになりました。
2025年現在「ハラール=ムスリムのための活動」「ハラール=ハラール認証」、もうそんな考え方は時代遅れとなり、日本のハラール産業は世界の潮流や需要に対応し、日本の国益になる付加価値を持った位置づけになりつつあると感じます。
現在、弊会のハラール認証を取得する企業の約9割が食品、化粧品、医薬品等の原料で、海外イスラム圏への販路拡大を目的に認証を取得しており、ハラールロゴの付いたムスリム消費者向けの商品はごくわずかです。
ハラール認証を取得する化学品や生化学品等の原料は、日本独自の技術力を誇る、機能・高品質で、海外には存在しない製品類であり、日本の強みが色濃く反映された製品として、広く海外へ輸出されています。企業の多くは日本を代表する大手企業です。
また、畜産分野のハラール認証においては、ハラール屠畜された「WAGYU」がイスラーム圏はもとより、その美味しさの噂を聞き付けた欧米諸国での人気の高まりに貢献しています。
他方、輸出先のイスラーム圏の国々では、法律や国の法令によってハラール認証に関する規制が強まっています。海外でも有効なハラール認証書を発行するためには、弊会自体が海外のハラール認証機関(政府機関)から認証団体としての認定を得る必要があります。
弊会は、2012年マレーシアJAKIMより承認を得たことを皮切りに、シンガポール、インドネシア、湾岸諸国、トルコなど主要なイスラーム圏の政府機関から承認・認定を得てきました。
それらを取得・維持するためには、各国のハラール認証団体の認定基準やISO基準をクリアする必要がありますが、その要求事項は年々厳しくなっており、それらの維持にかかる膨大な費用はNPOである弊会の運営を圧迫し続けています。
また、各国機関からの要求事項には「監査員の資格要件」が含まれますが、「監査員はムスリムであること」「認証対象となる分野の背景(学歴・職歴)があること」「監査員としての経験年数」等、詳細かつ日本においては条件クリアが困難な指定があり、条件に合致する監査員を簡単に雇用することが出来ないことも大きなハードルです。
更にインドネシアは近年、輸入品に対して実質上の「ハラール認証取得」を条件とする法令を制定し、各輸入品を細かなカテゴリーに分類した上、そのカテゴリー毎にハラール認証団体には一定数の監査員の雇用を義務付けました。例えば、5カテゴリー以上の相互承認を取得したい場合、最低16名~30名の監査員の雇用が必要になりましたが、我々のような小規模な非営利組織にとっては一度にそのような大人数の監査員の雇用をすることは非常に困難です。
こうして、海外における状況変化の荒波に揉まれつつも、弊会はハラール認証団体として、認証を提供する立場として、利用者に対し利便性と認証書の価値を最大限に高め、「1枚で世界各国に通用するハラール認証書」を提供するため、提供者として出来る限りのことを追求し、出来る限り多くの分野の製品を海外に送り出せるよう、最大限のカテゴリーで各国からの認定・承認を取得するよう、各国から厳しい査察を受け入れ、相互認定・承認を獲得することに尽力しています。
こうした弊会の活動は関係者や顧客企業の皆様方に支えられて今日に至りますが、関わってくださった皆様方には心からのお礼と感謝をお伝えしたいと同時に、今後とも是非ご協力を賜りたい次第です。
次世代への責任
世界のハラール産業が興隆や変遷を遂げる傍ら、私たち日本で生きるムスリムには今、様々な課題があります。
なかには実現が一筋縄ではいかないものもあります。例えばお墓の問題、学校給食、イスラーム教育、結婚・離婚、冠婚葬祭、新鮮なお肉の入手等々。
日本でそれらを実現していくためには、日本社会と共に解決を図る必要があります。そのためにはまず、日本社会の中で「イスラーム」「ムスリム」を知っていただき、逆にムスリムは日本の社会を理解することが必要です。
意外なようですが、日本古来の神道や仏教もイスラームと照らし合わせてみると数多くの共通点があります。どの宗教もルーツは同じだと思わざるえない、遠い国の宗教と思っているイスラームは、実は先祖代々受け継いできた価値観と相反さない面があるということを、日本人ムスリムである私は感じます。
海外からムスリムが自国の文化を引き連れて日本に来て、日本人はそれがイスラームのイメージだと抱くこともあるかと思いますが、本来イスラームは特定の文化を持ちません。
イスラームの教義の中には決まった「信じること」「行うこと」において、世界中のムスリムに共通の事項があります。しかし、教義と文化は別物であり、日本においては日本の文化に順応することで「日本のイスラーム」の形になります。日本建築の礼拝堂、着物にヒジャーブをまとったムスリマ、山や川に行けば自然の素晴らしさに神を称える、断食明けにお雑炊食べる・・・それらはなんらイスラームに相反することではありません。
理想的な有り様を築くことはもしかしたら私たちの世代での実現は難しいかもしれませんが、少なくとも次世代に託すための基盤だけは築きたいと思います。
我々が取り組む社会活動として「学生支援」がありますが、それもこの一環になります。子供たちは私たちの後に社会を創っていく宝であります。ムスリムの子供たちも社会に出てそれを担います。
未来の日本では「ムスリムだから」とか「イスラームを知らないから」などの理由で同じ場にいられないということのない社会になっていてほしいと願います。私たちの世代で「知ってもらう」ことを精一杯活動し、この協会を持続可能な形で維持することに尽力したいと考えています。
















