日本ハラール協会は、JAKIM(マレーシア)、MUIS(シンガポール)、BPJPH(インドネシア)、HAK(トルコ)及びGAC(湾岸諸国)とMOIAT(UAE)から承認・認定されたハラール認証団体です。
活動報告:MIHAS, The Global Halal Summit (GHaS) 2024
主催:マレーシア国際貿易省MITI、マレーシア宗教省JAKIM
期間:2024/9/17-19
場所:Grand Hyatt Hotel Kuala Lumpur
今年もマレーシア・クアラルンプールにて、世界のハラール認証団体や関係機関が一同に参集する会議・イベントが開催され、JHAからは理事長のレモンが参加した。
昨年の来場者数が38,566名を記録し、世界最大の国際ハラール展示会としてギネス認定されたMIHAS。9月17日にMalaysia International Trade & Exhibition Centreにて
開催された今年の開会式では、世界におけるマレーシアの知名度を高め、国内の輸出企業を17,000社・売上を250億リンギットまで押し上げたMIHASの功績を振り返りつつ、今年の関連売上を35億リンギットと見込み、今後のさらなるハラール部門の成長を宣言するスピーチで幕を開けた。
マレーシア首相・副首相をはじめ、国を挙げて経済の起爆剤となるハラール産業を推進していく熱意が伝わる開会式であった。
[写真1]開会宣言をしたマレーシア首相YAB Dato Seri Haji Anwar Ibrahim氏
日本からはJETROクアラルンプール事務所が「ジャパンパビリオン」を出展、当会の認証企業様の中では、世界中の茶道愛好家から親しまれている京都の老舗・丸久小山園様がブースを構えた。今回がMIHAS初出展の同社、ジャパンパビリオンで唯一の製茶ブースということもあり、好評を博していた。
[写真2]和の雰囲気が素敵な丸久小山園様のブース
その他、ジャパンパビリオンにはJETROクアラルンプール事務所にて日頃から紹介されている出展企業様の商品を紹介するコーナーもあった。
[写真3]JETROクアラルンプール事務所のブース
出展企業様から消費者商品の価格帯がマレーシア市場でなかなか見合わないといった声があった。弊会の認証取得企業様にとっては総じてマレーシアが最大の輸出先国であるものの、消費者商品はわずかであり、多くは原材料としての輸出されている傾向がある。
一方、マレーシア国内では、インバウンド効果や「日本食を自宅で食べたい」「日本人が食べているそのままの味を楽しみたい」といった需要の高まりにより、消費者商品を扱う食料品店や日本料理店が街中に増加している。マーケティングにおける価格帯、販売先・一般消費者への浸透・認知の方法等が今後の課題ではないかと感じた。
9月18日、所変わってクアラルンプール中心部のグランドハイアットホテルにて、マレーシアのハラール産業推進50周年を記念する第14回JAKIMコンベンションが開催された。宗教省JAKIMの局長は残念ながら体調を崩されてビデオレターでの参加となったが、70年代から今日までJAKIMのハラール認証が世界中から信頼を寄せられていることを称えておられた。
[写真4]ビデオレターで登場されたJAKIM局長Datuk Hajja Hakimah binti Mohd Yusoff氏
コンベンションの参加者の多くは民間・行政機関からなる世界49か国・JAKIM承認を取得している88のハラール認証団体のメンバーで、今年も毎度お馴染みの面々に加えて新しい認証団体も見受けられ、様々な交流の輪が咲いた。新しい認証団体で特に多かったのが中国や韓国の団体。今年立ち上げたばかりという香港の団体の代表からは、ハラール認証が毛染め剤やネイルなどを対象とすべきかどうか、どのように認証団体の管理システムを構築し、各国との承認・認定を進めればよいのか等、様々な相談を受けた。また当会と相互承認を結んでほしいとMOUを持参した団体もあった。
毎度お馴染みの面々では、特に私が懇意に情報交換しているベトナム、イギリス、ドイツ、アメリカ、イタリアの認証団体とは話が尽きず、皆日頃から同じような認証品を取り扱い、同じような国に輸出をするなかで共通の疑問や課題に直面しているため、「サウジがこんなこと言いだしたけど、あんたたちはどうするの?」「聞いた?UAEは分裂したんだって!」などと口々に話しかけてくれる。サウジアラビアやUAE、インドネシアでの目まぐるしい情勢について情報交換をし、それぞれが悩ましいくらいに山積している対応事項について意見交換した。
このように、各国の認証要求が明文化されていないものは人と人のつながりによって情報収集を行っているが、おのずと情報量が異なってくるため、ハラール認証団体としての組合活動や、各団体のキーパーソンとの繋がりが重要となる。国や組織は違えど、各団体とも同じようなことを日々行い、同じように悩みながらやりくりしているので、彼らに対しては同僚のような感覚すら湧いてくる。
[写真5]ディナー会場にて、副首相Dato Seri Diraja Dr. Ahmad Zahid Hamidi氏
コンベンションでは、ワクチン等で注目が高まった医薬品の分野における要求事項や現状の報告等がなされ、より複雑で高度な原料の捉え方への注意喚起等がされた。ファトワ委員会のメンバーによる忌避する原料や取り扱いの方法に関する説明もあり、その中に「イスティハーラ」の説明があった。
ハラール認証においては、化学的・物質的に完全に不可逆的に変化していて、味・におい・色においてそれらが確認できれば「変質した(イスティハーラ)」とみなす場合がある。例えば、ゼラチンは精製され変質しているように見えるが、完全に変質はしていないのでイスティハーラは適用されない、とされている(一部逆の意見も存在する)。
このように、イスラーム法学派によってイスティハーラの見解を適用できる場合とできない場合があり、一概に適用できるようなものでないことから、認証団体においては採用を拒むことも多い。
しかしながら、昨今の複雑性の高い原料においては適応せざるを得ない場合もあり、そうなると逆に複雑性の高い原料のさらに起源原料までさかのぼり、その原料と製造工程においてナジスがないことを確認しなければならない、等という要求が出てくる。食品技術の向上に比例して、監査の複雑性は高まる一方なのである。ましてや、医薬品・化粧品・化学製品になると原材料の数が半端なく多くなり、更に複雑化することに・・・。
企業及び監査員は、このようないたちごっこをいつまで続けなければならないのか。「ハラール認証=複雑」と言われるのは、要するにこれが原因なのである。もし、大概の原料が「イスティハーラ」で片付くのであれば、ハラール認証はここまで複雑にはならない。しかし、これが世界のハラール認証の潮流であり、大きな課題である。このために、我々は日々情報を追いかけ、調査に時間を取られ、監査員や企業担当者の憂鬱が晴れない日々が少なくはない。こんな認証システムをいつまで続けるのか、続くのか・・・未来のハラール認証はこうではなくなっていることを願うばかりである。
[写真6]ファトワ委員会メンバーによるイスティハーラ解説のスライド
コンベンション最終のパネルディスカッションにおいて、JAKIMの監査も務めるシニア職員、産業団体の代表者、JAKIMファトワ委員会メンバーによるプレゼンテーションに対する質疑応答が設けられたので、日頃から思っていた疑問をお三方に問いかけた。
Q1:(JAKIM職員の方へ)微生物や菌について「50~60年もの昔に購入したものを継代して培養しているので、由来が不明」という状況の場合、JAKIMではどのような判断をするのか。最初から使用不可とするのは簡単であるが、本当にそれしか選択肢はないのか。
答え:詳細が不明であれば使用不可。由来を追跡するべし。
Q2:(産業団体代表へ)マレーシアでさえハラール産業の90%が非ムスリムの生産者で構成されており、日本においては100%である。ムスリムの生産者が少ないという事実に対し、それを増加させる戦略や解決方法を持ち得ているのか。
答え:ムスリム経営者に対して定期的にセミナーを設ける等の指導をしているが、現状は打破できていない。これを継続的にやることの他に方法を思いつかない。
Q3:(ファトワ委員会メンバーへ)昨今リサイクルオイル、ガス、プラスチックなどのリサイクル原料が広く食品産業でも使用されるようになったが、これに対してJAKIMファトワ委員会としてファトワを出す予定はあるのか。
答え:現状予定はないが、状況に応じて検討することは可能。
いずれもドンピシャな回答を得ることができずモヤモヤが残ったものの、会が終わった後に他の認証団体から「質問の内容に同意するよ」と共感する方々が何人も声を掛けてくださり、少なくとも我々と同じような状況下で右往左往している人々が世界に大勢いることが分かったことは救いであった。
ハラール認証においては、ハラール認証そのものが複雑である事自体が日々戦いであるにも関わらず、加えて各国のハラール相互承認・認定機関による要求に答えなければならない重圧がのしかかる。それも、過去のように単純に1国からの要求だけに答えておればよい状況と異なり、今となってはマレーシア、インドネシア、シンガポール、湾岸諸国、トルコ等々からの、異なるそれぞれの要求に対峙しなければならない状況がある。
それには労力、時間、コストが大きくかかり、日々その対応に明け暮れ、その間に我々の本来の仕事である肝心のハラール認証の方がまともにできなくなくこともしばしばである。
昨年のJAKIMコンベンションでは「世界の認定機関を統一する」という朗報があったが、今年になってインドネシアはじめ、サウジアラビア、UAEまでもバラバラとなる動きを見せてきた。「あの朗報」は、今年のコンベンションでは一言も触れられることなく忘れ去られ、糠喜びに終わったようだ。
我々は我々の仕事をどのように・どこまで簡潔化し、持続的に継続できるのかを実行していかなければ、当会はもちろん、日本のハラール認証団体は自身を支えることができなくなり、崩壊してしまう危機的状況である。円安の流れも手伝ってか、高品質な日本製品市場におけるハラール認証の需要は、食品を超えて化粧品や化学品にシフトし、加速しつつある。これを受け止められる体制がなければ、日本の貿易にまで支障が生じる可能性が否めない。現状我々を苦しめているインドネシアやサウジアラビア等のハラールにおける規制は民間から出たものではなく、各国政府が法として定めたものである。従って、それを受容できるのは民間ではなく、唯一政府のみが受容できるような性質のものとなってきており、もはやハラール認証は「宗教的な要求」ではなく、「輸入規制」化していることを正確に捉える必要がある。
先述のマレーシアやインドネシアが国策としてハラール産業に注力するのは、経済効果が1番の理由であるが、そのマレーシアですら90%がノンムスリム経営者による供給である。そこには「イスラームのため」や「ムスリム社会への貢献」はリップサービスと化しており、現状は各国の「経済的発展」が目的となっている。良いか悪いかは別として、これらの国々が課す「輸入規制」として割り切った際に、これらは民間のムスリム団体が個々に背負うには重すぎる荷なのである。いわば、ハラール認証は今やこれらの国々の経済効果を高めるためのツールであり、我々は消費される駒でしかない。もともと「ムスリム社会への貢献」を目的としていた多くのハラール認証団体にとってはそこに歪みを感じるのは当然であるが、現状を打破することができないのであれば維持をするほかなく、我々は現状を悪化させないために最善を尽くすのみである。
ハラール認証一つをとっても、ハラール認証団体、監査対応、承認・認定機関対応、ラボ、トレーニング機関、研究・開発機関、コンサル・マーケティング部門等、様々な役割が必要である。国内の関連団体でそれぞれが役割分担し、個々が行っている業務を集約できれば、各々の負担が軽減され、尚且つ特定の業務に集中することができ、運用の効率化により持続可能な仕組みができると考える。
各々が窮地に立たされて初めてこの考え方にたどり着いた日本の認証各団体であるが、当会から徐々に連携の種はまき始めている。実現できる可能性は不透明ながらも、できれば海外との相互承認に費やす時間や労力は一定内に収めることで日本における認証活動を確実に継続しつつ、一方で国内の飲食店のハラール対応やムスリム経営者への支援、ムスリム生活者がハラールな住宅ローンで家を購入したり、ムスリムのビジネス開始を支えられるようなイスラーム金融の支援に携わり、国内のムスリム支援の原点に立ち返ることが私の本望である。
レモン史視 2024/10/8